会社の人とランチをしたときに「統計学」を学びたいという話になり、1冊目どの本をおすすめするか、大型書店で厳選し、本書を購入しました。
概要
本書は、初学者のための統計学実践書です。「基本的な入門書は読んだが、実際に使おうとなると、どの手法を選べば良いのかわからない」という方を想定し、基礎的な部分から応用編まで、まんべんなく解説されています。
図表やイラストが豊富で図鑑のようにパラパラとめぐるだけで気軽に学べるのが本書の特徴です。楽しみながら実務に必要な統計学の知識が身につきます。章立ては以下の通り。
- 記述統計学
- 確率分布
- 推測統計学
- 信頼区間の推定
- 仮説検定
- 分散分析と多重比較
- ノンパラメトリック手法
- 実験計画法
- 回帰分析
- 多変量解析
- ベイズ統計学とビッグデータ
一般的な統計学入門書以上に幅広い分野が扱われています。1〜7章が一般的な統計学で扱われる分野で、8章が実験計画法、9〜10章が多変量解析、11章がベイズ統計学とビッグデータとなっています。9〜10章の多変量解析では、無料ソフト「R」によるコマンドが記載されています。
加えて、統計学の歴史やExcelの関数などの「コラム」、カール・ピアソンやロナルド・フィッシャーなどの「偉人伝」で、一歩進んだ知識を学べるのも本書の特徴です。
統計学をサクッとひととおり学ぶ
統計学とは、データを統計量(平均など)や図・表にまとめて、その特徴をとらえる学問です。統計学は大きく、以下の2つに分けられます。
- 記述統計学:手元にあるデータの特徴をとらえる
- 推測統計学:母集団の特徴を標本からとらえる
本書の「序章 統計学とは?」で、このあたりの概観と実生活における具体事例が紹介されています。序章で統計学を学ぶ動機づけがされている点が1冊目におすすめする理由でもあります。
大学のとき、基礎科目として以下3つの参考書を使った統計学の講義を受けました。
本書で、この3冊分の要点をサクッとひととおり学べました。加えてベイズ統計学とビックデータについても要点が学べます。
ただ、その分、数式の証明などはないので、学問として統計学を学びたい場合は本書単体はおすすめしません。小学校のときの授業で使った、教科書プラスアルファとしての「資料集」の位置付けで使用するといいでしょう。
手法は課題解決のため
本書の「コラム」や「偉人伝」を読むと、統計学の手法は課題解決のために試行錯誤から生まれてきたと感じられます。学問的に勉強すると、あたかも分析手法が必然かのように、手法が目的化しやすいです。手法は課題を解決することが目的なので、課題を解決できるなら、手法は使わなくてもいいと思っています。ただ、過去から洗練されてきた手法がベストな場合が多いので、手法を適用することが多いです。
一例として、標準偏差や相関係数、ヒストグラムなどの記述統計学の大成者である「カール・ピアソン」についての偉人伝の一部を抜粋して紹介します。
“応用数学者”ピアソンを統計学の世界に引き込んだのが、大学の同僚で動物学者であったウェルドンです。ウェルドンは、ゴルトンの影響を受け、生物の進化を統計的に解明しようとしていました。そこで数学の得意なピアソンに協力を仰いだのです。ピアソンは、こうしてウェルドンと一緒に、遺伝や進化の問題に対して統計的な手法を使って接近しようとしますが、その過程で、近代統計学になくてはならない数多くの概念や手法を考えついたのです。
記述統計学は、遺伝や進化の課題を解くために、生み出されたことがわかります。
さいごに
本書の表紙に「統計学は科学の文法である」と記載されています。これは、カール・ピアソンの言葉です。科学とは方法論であってあらゆる現象が科学の対象となりうるという持論を展開し、特に統計学を科学という言語における文法に例えて説明しています。統計学は、科学とあらゆる現象をつなげる学問かもしれません。
そんな統計学を、実学として本書で学び始めてみるのはいかがでしょうか。